緑水会

練習十則

日本水泳連盟の初代会長、末広巌太郎氏が残した遺訓

 

[練習十則]

 

第一則 まず正しいトレーニングによって体を作れ。体を作ることを忘れて、いたずらに技巧の習得に努めても決してタイムは上がらない。

 

第二則 体と泳ぎを作ることを目的とする基礎学習と、レース前の調子を作ることを目的とする練習とを混同してはならない。レース前になって、むやみにタイムばかりとるような練習は最も悪い練習である。肉体的にも、精神的にもいたずらに精力を消耗するだけのことである。

 

第三則 むやみに力泳するよりは、水に乗る調子を体得する事が何よりも大切である。

 

第四則 スタートとターニングの練習は、泳ぎそのものの練習よりも大切だと思わなければならない。

 

第五則 一つ一つのストロークを失敗しないように泳ぐことが、最もよいタイムを得る方法である。

 

第六則 レース前の練習に当っては毎夕毎晩、体重を測れ。もし、朝の計量において体重の回復が十分でないことを発見したならば、練習の量を減らさねばならない。

 

第七則 スランプは精神よりはむしろ体力の欠陥に原因していると思はねばならぬ。いたずらにあせるより、思い切って2,3日練習を休む方がよろしい。

 

第八則 レースまぎわに体を休ませるつもりで力泳を控えることは非常に危険である。体を休ませるために練習量を減らしたければ、力泳をさせつつ、その分量を減らすようにせねばならぬ。休ませるつもりでフラフラ泳がせると調子がこわれてしまう。

 

第九則 あがるくせのある選手にいくら精神訓話を与えても、何もならない。いかなる場合にも体を柔らかくして、水に乗って泳げるように練習させ、くせづけてしまうことが何より大切である。

 

第十則 よき練習は良きコーチによってのみ行なわれ得る。しかしコーチのみに頼って自ら工夫することなき選手は上達しない。

 

日本水泳連盟会長:末広 巌太郎

(昭和14年・機関紙「水泳第64号」に掲載)

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